工藤ビルにて/和合亮一
『詩ノ箱』のつかいかた
詩ノ箱

その他のライト・オンザ・スポット

〈わくわく〉

わくわく わくわく
詩を書くぞ わくわく
この わくわくする一枚のカードの中で

ボクは生きている
遠くの
森の中で
動物たちが
のんびりゆったりと過ごすように

このボクも
このイベントの中の
人がいっぱい集まる
七日町の空間の中で
わくわくしながら
生きている
これが
欲しかった
ボクのわくわく

山形商工会議所にて/柏倉千加志

市井の人達の幸せって何だろう
市街の機能は
個々の人々の暮らし営みと
スリ合わされて
設計されているだろうか

歴史・文化って何だろう
社会って何だろう
大き過ぎず
小さ過ぎない街の在り方って
それ自体、あるいは事態
あり得るだろうか

人間が住み暮らす以前に
街は存在しなかった

市井の人達の
笑い声が
聞こえてこないとしたら
街は終わっている

山形・七日町にて/笈稔 KYUNEN

知らない子の無邪気な歯と
知らない父の無邪気な歯が
サッカーボールの音と
混じって

実際に干された雑巾からは
知らない家庭の
マジックインキの
におい

砂の硬さを思い出して
昔の靴を思い出して
さわらない

口の
中で
甘いシュークリームの味がしました

東原町二丁目にて/アカシ

〈9がつ22にち〉

青がふかい
どこまでつづくのでしょうか
およいでみたい

緑がかたい
きっとくつがかわれば
やわらかくなるのでしょう

黄色がかわいい
CCレモンって炭酸なんだ
わたしはここが好きです

七日町五丁目にて/こだま

子供の頃、夜にこの建物を見た
とても怖いと思ったのを覚えている
大人になった現在
あらためて見上げたその建物
ただ、歴史の重みを感じるその建物
子供の頃に覚えた、怖いという感情
それは歴史の重みだったのか
それだけ自分は成長したということか
新たな疑問が生まれる
その疑問の答えを、またどこかへ
探しに行きたい

教育資料館にて/トリックスター

見知らぬ誰かが、奥で祈祷を受けている
それを眺めながら、自分も神殿に
手を合わせる
一体何のために祈るのか?
自分のためか
家族のためか
ただ、ささやかな幸せが欲しいのか
そもそも祈りとは何なのか
祈りとは、神に祈りながらも
同時に
自己との対話なのかと思った

湯殿山神社にて/トリックスター

〈私のまわり〉

この世には わたししかいない
と思うときがある
店先にぶらさがる くたびれた
かき氷の看板が
ゆらゆら 肌寒い風に ゆられている
人の気配は どこにもなく
私のそばには 誰もおらず
私も季節外れの 看板のように
冷たい雨に傘を叩かれ ぶるぶる震えている
ちょうど そのとき 視界にハトが一匹
舞い降りて
あっと思った瞬間 さした傘がわたしを包み
雨音は子供の頃食べた 
口のなかではじけるキャンディーのお菓子のように
愉快に歌い 気がつけば 
人の声が まわりにきこえる

旅篭町三丁目にて/さとう

ドイツトウヒ
マツ科 トウヒ属
分布:ヨーロッパ
場所、文翔館の周辺

空を見上げたら音がした
他の人にも聞いてみたい

クリスマスツリーにもなるらしい

ぼん
ぼん ぼん ぼん
ぼぼぼん ぼん

文翔館に植えていた
ヨーロッパ生まれのマツです

ぼん ぼん ぼぼん
ぼぼぼん ぼん
僕には ぼんて音がする
君には何て音がする?

文翔館にて/いけだこうた

様々な色をした青春が集う9月22日
少しひねくれた青春や
キラキラした青春も
彼や彼女たちは当たり前だと思うのだろう
当り前じゃないけど
当たり前の顔した、青春を
様々な色をした宝石のような青春を思い、
私の眠っていた青春も芽吹き出す

今日は、高校演劇地区大会

山形市民会館にて/ツガル

〈声〉

聞こえる 聞こえる
こうして足を交互に前に出していると
いろんな声が聞こえてくる
それは車のアクセルの声だったり
大型バスのブレーキの声だったり
幼な子の母親を呼ぶ声や
仲良しな女性カップルの笑い声だったりする
あっ
救急車のサイレンの音がするよ
今にも振り出しそうな重い雲の下
やっぱり人の声が一番安心するなあ
堰を流れる水音を聞いていると
ひと月前のあの夏祭りのざわめきまでが
聞こえてくるようだ

急に降り出してきた雨粒がカードを濡らすと
歩道の傷やタイルのすき間から
何十年
何百年も前に
この道を闊歩した人たちの声まで
聞こえてきて
私にそろそろ帰るようにと促してくれるのだ

七日町商店街にて/柏倉千加志

アスファルトに舗装された細い道は
黄色いポールで
わたしを誘惑する

七日町四丁目にて/M.K

〈食器のぶつかる音〉

アパートの室外機がひとつだけ回っている
救急車のサイレンが遠くで聴こえる
冷たい空気にエコーする
プロペラの回転が
いつの間にか止まってしまっていた
飲食店のドアがひらいた
いそいでわたしは立ち去った

千歳館にて/M.K

熊が好きな人を好きなので
熊が好きなんです
ごわごわの毛皮と
鋭い爪に触れたくて
ここに来ました

冬が嫌いな私は
ブナの実をいっぱい食べて
寒い季節は寝て過ごす
熊のことが羨ましい

山の熊
冬眠の支度はどうですか?
私はここでコーヒーを飲んでいます

熊も私も
春が来るのを待っている

とんがりビルにて/すもも

あんどーあんどー
どまんなか
いろべんぞいろべんぞ
こっからこっからー

あいあいあいあい
らいらいらいらい
せいやーーーーーあ
かぽーん

チャーハンをいためるみたいに
はじけてこぼれる少年の音
校庭から街中への
元気なお届けもの

山形工業高校にて/ます

これは こげなのだろうか
正月のもちのように
ぷくっとふくれている

長年のよごれなのだろうか
それとも味をだしているのか
ヤンキーにボコボコにされたのか

そう考えながら
反対側をのぞくと
そちらはそんなこともなく
ただ日にやけているだけ

平然としてどっしり構えている
そうよね
字がよめれば大丈夫よね

六日町にて/ぞん

家裁去る子追う老婆の背にもそそぐ秋の陽
城跡の人々をあまねく照らす西陽
この期に及んで捨てざる希望

黄色の銀杏並木の間を
光りながら無数の羽虫が飛ぶ
古城を散策する人々の間に間に
交錯する緑
地獄も極楽も
夢のまた夢であるかのように

山形地方裁判所・霞城公園にて/ふせ

渡された地図の「寺」の字に目が留まる
「先生、号泣って何ですか」って尋ねたこと
床に倒れ、ケイレンしながら友が泣いたこと
記憶を頼って寺の町に行くと
歴史を歩いた人々を弔った
懐かしの寺があちこち見える
法事を重ねるって
死者を忘れるだけでないんですね
自分の過去もともに消えてゆくんですね
先生、年を重ねるってこういうことですか

宝林寺にて/野原ネル

愛は愛のままで
空気を震撼させる
その振動が心に届いた時
心に花が咲く

旧山銀ホールにて/Y.I

あなたは誰を待っているのですか
いつも見つめている
同じ場所で
同じ所を

映える
金木犀の香り
教えてくれた
窓越しのP

向かい合う 2つのライトは
冷たい空気の中で
ワルツを舞う
他を気にせずに 見つめ合って

工藤ビル前にて/Y.I

君はスキャナー
メモリを探して街をゆけ
北高、図書館、東高
あの子のバス停もうありません

ボクはスキャナー
記憶を探して街をゆけ
更地になったその場は
水に沈んだ友の家ではありません

ぼくらはスキャナー
言葉を探して街をゆけ
山大、青空、いちょう並木、
くさい、季節外れの台風
ぼくらの季語は変わったの?

工藤ビルから山形大学までの道のりにて/
映写技師

〈 落ち葉カサカサ 2019#2 〉

二階建ての
昭和のにおいのする
古いアパート
一階の
窓から吊るされた
まだ明るいオレンジ色の
干し柿
こんなところにも
山形の秋
地にカサカサ揺れる落葉
頬にあたる風は
ちょっと冷たい
この柿が濃い茶色になる頃には
初雪が降るだろう
そしてこの窓もきっと
防寒、雪囲い

六日町七丁目にて/ミズホ

〈 落ち葉カサカサ 2019#1 〉

窓とスクリーンの
詩人とディレクターの
道路と歩道の間で
文化財の片隅のベンチに
座っていた赤い服の女性
本を読んでいたのか
お弁当を食べていたのか
人を待っていたのか
もしかして詩を書いていたのか

気がついた時に
赤い服のあなたの姿はそこにはなかった
赤い服のあなたから少し遅れること
14時30分
ほんの1時間前あなたが座った
その場所を目指し歩く

到着し
腰をかけたその瞬間
光の向きと、見ていた景色の色が変わった
そうか、ここは180°違う世界
庭園のケヤキの紅葉が
太陽に照らされて
黄金色に、キラキラ、キラキラ
耳をすませば 清掃員のおじさんが
落葉を集める、カサカサ、カサコソ

ああ、太陽の位置が変わると
見ている風景がこんなにも変わる
色どりの変わった別世界
工藤ビルの4Fの電灯が5つ、小さく光っている
赤い服のあの人が、何をしていたかはわからない
ただ、この木漏れ日とそよ風を
同じように気持ちよく感じたに違いない

文翔館前にて/みずほ

〈ドウタンツツジ〉

あったかい
陽を浴びて
やさしい赤
おかあさんと同じいろ

文翔館にて/ukiuki

くすぐったい
鈴のおと
追いつかなくていいから
いっぱい
笑って生きたい

あのこが今日
鳴らしたおとが
私の幸せになったよ

湯殿山神社にて/ukiuki

幼い子供たちが
手を繋いで
歩いている

後ろには母だろうか
少し不安な表情で
見つめている

建物の隙間を抜けると
白い光が目の中に飛び込む

シャツの青が
指先に反射する

ツメに残った絵の具が
明日を待つ

遊学館前にて/きみちゃん

「しりとりとほくほく、どっちが好き?」

ほくほくの
  ぶ

    ん
です
私の心を
うる
うる に みたしてくれた

ぽ  ぽ
 か  か の

 ば
  あ
   ち
    ゃ
  ん
たちに
会いたい

やきいもかん太にて/まえがみ

そわそわしました
でも、気がつくと百合の花の
良い匂いがしました ほっとしました
あのときのタイ料理屋
ごめんなさい、味はあんまり覚えてなくて

あの人のことは
あ まり
 ん
忘れられていなくて

シーロムにて/まえがみ

静かなとこが好きなんだ
車の音とか人の声とか
私を不安にさせるんだ

外の空気はつめたくて
でもどこかあったかくて

私を受け入れてくれたんだ

人がいるのかいないのか
やっているのかいないのか
さびれたスナックの看板
一つ一つ名前がなんだかおかしくて
ここは変な人が多い

なにかごにょごにょつぶやいて
歩いている おじさん
犬にずーっと話しかけながら
お散歩している おばあちゃん

みんな1人だったけど
楽しそうに 生きていた

花小路にて/まめ

※手書きでの即興詩ワークショップのため、このたびのウェブ作成にあたっては一部判読が困難な作品について、掲載を見送りました。当該作品については作者の確認をとり後日追記させていただきます。